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auditR:会計監査に統計分析ツールを使ってみる

auditR

 会計監査に「R」を使ってみてあれこれ実験してみたことを個人的にメモしたものを紹介するサイトです。

  • CAATに興味のない方は、このサイトを見るより他に有意義なことをしたほうがよいでしょう。
  • このサイトで説明されているほとんどのことは表計算ソフトやデータベースソフトを使って実現できます。会計監査領域外の優れた知性を統計ソフトを通じて気軽に活用するという基本コンセプトがあるため、あえてRを使ってみるところに意義を見出しています。
  • 実務での適用に当たって、本当にRを使うメリットがあるかどうかは、各自よくよく考えた上でご利用ください。
  • RおよびRStudioが設定された環境を前提としています。RおよびRStudioの利用条件等はそれぞれのサイトの記載に従ってください。
このサイトに書かれていることによって生ずる一切の損害については当方は責任を負いません。
また内容については個人の備忘メモですので途中で書きかけのまま終わっているものや、未確認の内容も含まれます。

 サイトの目的

第一の目的:自分の備忘記録

ある処理を実装する方法を試行錯誤して悩む都度、ネットを検索したり本を開いて調べたりはするのですが、R自体を常時使うわけでもないことから、どうしても「あれ、前にも調べたけど、これどうやるんだっけ?」という事象が生じます。これに老化現象が加わると、調べたことすら忘れますので、本に付箋を付けても、検索したサイトのリンクを保存しても、結局は調べたものに速くたどり着く方法が必要です。そこで、自分なりに情報を整理(つまり、メモ)することにしました。

第二の目的:他の人にも役に立てばなおよし

自分のための情報整理ですから、好き勝手に作っています。ネットに載せることも、かつて自分のPCのハードディスクがクラッシュして貴重なデータを失ったときに、たまたまネット上においていたデータは無事だったという教訓から来た浅知恵です。結果的に、多少なりとも人の役に立てばいいかなという程度です。

第三の目的:監査に新しい手法が増えればさらによし

自分がまとめた方法が唯一正解ではありません。むしろ監査の手法は「実務の中から慣行として発達していくもの[1]」ですから、実務家の切磋琢磨と相互研鑽による学習と成長が前提です。

このサイトを見た方が、自分でもできると思われたり、新しい方法を編み出されたりされる結果、監査手法が発展していくことを願っています。

第四の目的:それで世の中がよくなれば最終的に吉

まぁ、そこまでは気負っていませんが・・・。

 著者の能書き

監査の置かれている環境変化

コンピュータの能力が進歩して会計監査の領域においても活用が広がっているが、いわゆるオフィスソフトやメールの利用、あるいはWEBでのデータ検索が中心である。

一方、監査環境においては特に被監査会社において情報技術を用いた業務処理が広がっており、従来のような紙の帳簿や伝票は少なくなっており、「紙の上でデータを見る」という従来の発想では監査証跡の追跡可能性(トレーサビリティ)に支障が出ている。

特に、インプットされるデータとアウトプットされる財務諸表との間の処理がブラックボックスとなることは、財務諸表と取引との関係が追跡しにくくなり、監査リスク(潜在する誤謬や不正がもたらす虚偽表示)に気が付かない恐れに繋がる。

一方、会社の経理業務においてはいわゆるエンドユーザコンピューティング(EUC)が広がっており、情報システムからデータを入手して決算や経営管理等に活用するケースが増えている。監査人においてもこれらのデータを利用することができれば、「ワープロと表計算ソフト」から脱してブラックボックスをガラス張りに透明化したワンランク上の監査手続が可能になると期待できるのではないか。

監査基準と実務対応

このような環境を前提に、監査基準ではいろいろな場所でCAATの有効性を説いているが、実際の監査現場では、その適用範囲の広さや利用方法の深さという点でまだまだ拡大の余地がある。

監査基準は監査人に虚偽表示リスクを許容可能なレベルまで押さえ込むための手続について要求はするものの、その具体的な方法についてまでは指示しない。あらゆる医術の中から患者の状況に適した治療方針を立てて治療行為を判断するのは専門家たる医者の役割であるのと同様、監査対象のリスクを踏まえて監査の方法論を適用するのは職業専門家の役割である。

当然、そこには方法論の創意工夫なども含まれ、CAATの活用もその一部に過ぎない。

色々な方法論があり得るし、また「実務の中から慣行として発達した」ものである以上、色々な方法論が提案されて活発な議論に繋がってほしいから、まずは議論を呼び起こすために自ら提案することとした。

Rという提案

そこで、Rという統計用のソフトウェアツールに着目して、会計監査に使えないかと思案してみた。このサイトは、Rの解説でもなければ監査手続の説明でもない。それらは書店に行けば多くの良書に巡り会うことができる。目指しているのは、そういった断片的な知識の整理ではなく、実践的な問題解決への提案である。そこで、

  • 会計監査で用いることを前提として必要/便利な機能に限定
  • 具体的な監査手続を想定した使い方を示すことに注力し、あえて機能紹介を欲張らずに削り落とす

ことを前提とした。換言すれば、自分が監査で試すことをそのまま載せているだけで、範囲の狭さは自分の業務領域の狭さに起因するものであるし、技術的レベルの低さは、そこまでの必要性がなかったというだけのことである。

 Rの学習におけるチャレンジ

監査の観点 データ処理の観点 必要なナレッジ(知識と技能)
実際の対象 対象を表わすデータ
分析目標 データと目標とをつなぐツールの選択
目標に応じた分析手法 データを利用するための具体的なツールの取扱
手法の統計理論的裏づけ ツールの仕様

具体的に学ぶ

Rを自習して最も感じたことは、やはり具体的事例を通じて学ぶことの大切さです。「あ、なるほど」という感覚は、リアルなデータであるほど強く得られます。監査は判断業務なのでこの感覚はとても大切です。

Rの本でよくあるように、デモ用のデータを使ってもRの機能を覚えることはできますが、単なるツールの解説だけになってしまい「納得感」がなかなか得られません。Rの解説書にはRに標準添付されているデモデータ(cars, irisなど)を用いて作られています。正直に言えば、あまり面白い事例ではありません。

いうなれば、ツールを使って出てくる結果に対して「なるほど」と実感を得られる理由は、そのデータの対象を知っているからこそではないでしょうか。

一方で、経済統計などの解説はその分析に使ったツールが何であるか関係がありません。したがって、分析のハウツーは分かっても具体的なツールの使い方となかなかつながりません。

これは監査実務から監査論を導き出すことはできても、監査論から監査実務は学べないことと同じです。監査は実践知である所以です。

実践的に学ぶ

リアルなデータを使ってRを覚えるには、実践現場で手を動かしながら、一連の所作を活用を通じて学ぶのが一番です。

逆に、実際のデータを使って研修等を行うことは、監査人に課される守秘義務の分厚い壁があり非現実的です。

医療データなどは、患者の属性だけを残して個人を特定できる住所や名前などの情報を外して匿名性を確保した上で学会などで発表する方法が採られています。

監査においてはこれもまた難しい方法です。というのも、企業情報は公開されているので、逆に公開情報から会社名が特定されてしまうことがあるからです。会社をイメージするのに最も大事な、業種、売上高、利益の3つがそろえば、簡単に分かってしまいます。

以上は極端な例ですので、ミクロなレベルではありえない話ですが、監査の世界でも具体的事例を通じた学術研究を進めるためには、企業データの取扱についての共通ルールを定めて社会的に有意義な事例をもっと共有しやすくすることも必要な取組ではないでしょうか。

そのような状況から、いまのところ実践データを使って実践的に学べる場は、監査現場ということになります。

Rの学習法

Rの機能は座学で学びつつ、「こういうことができる」という感覚を掴んで、なるべく実践データを使ってみて具体的な適用場面や使い方を覚えて実践知を磨いていくというのがよい学習法でしょう。

身近にRに詳しい方がいれば御の字ですが、そのような恵まれた環境の方はごくわずかですから、参考文献を読んだりWEBサイトを探し回って、適切な方法を見つけ出すことになるでしょう。

この一見遠回りな学習法こそ、実は長い目で見れば、幅広く奥行きのある知識の習得に貢献し、結局、それが監査における統計の応用を学ぶことに通ずるのではないでしょうか。

 CAATに対する思い

監査人(企業内の内部監査人も、公認会計士等の外部監査人も問わず、会計監査に関わる全ての人)にCAATをマスターしてもらい、監査技能を向上させ監査人としての仕事の価値を上げること。

また、経営管理部門にいる方で、会社のデータに手を焼く人にも同様に応用できる部分があるはずです。会社におけるEnd User Computingを監査ではCAATと言っていると捉えてよいでしょう。

最近では、「Data Analytics」という言葉が流行っていますが、これを持ち出すまでもなく監査においてはデータの活用がCAATとして1980年代頃から行われているというのは、誇るべきことではないでしょうか。ただ、歴史的に着手は早かったもののその方法論的発展においては、反省すべき点がたくさんあります。監査人は監査外部の知見として発展しているData Analyticsを伝統あるCAATと繋ぎ合わせて新しい監査の方法論を開発することが求められていると言えます。

 並行して学ぶべきこと

Rは素晴らしいツールですが、あくまでツールであってそれを活かす知恵や腕は監査人の努力によるところです。Rを学んだからと言って監査ができるようになるわけではありません。なかなか大変ではありますが、以下のようなことも並行して学ぶ必要がありますが、有体に言えば座学で学べるものではなく、実践しながら学んでいくことが必要です。

ガバナンスや組織に関する知識

監査が対象とする会社がどのように行動しているかは、意思決定の仕組みとそれを具現化する指揮命令系統、管理系統、実際に行動する機能組織などのシステムを理解する必要があります。

しかし、これらを実体験なく頭だけで理解するのはとても難しいでしょう。「組織のしがらみ(柵)」という言葉があるように、組織には目では見えない力学が働いています。いわば、仕組みはラジオのような部品の組み合わせであるとすれば、力学は回路を流れる電気で、それは見ることができないのと同じです。

内部統制や不正に対する知識

上の、「仕組み」の一つとして存在するのが内部統制です。内部統制を理解するには、これも経験がないとついつい「手続」や「手順」に目が行きがちになってしまいますが、それらが本来どのような目的で、それも一つではなくマルチな目的を実現しようとしているのか、さらには組み合わせた時に有機的に機能しているのか、機能はしているが効率的なのかといった観点がとても重要です。

また、監査という性質上、その内部統制が不正の防止、抑制、牽制、発見、対処の仕組みを持っているかどうかも、知っておく必要があるのですが、その前提として不正の手口などの事例をたくさんインプットしておかないと、想像力を働かせることが難しいでしょう。

業務でのITの活用に対する知識
 内部統制の理解の中には当然にそれの一翼を担っている情報システムの理解は必須です。しかし、仕組みとしてのITの理解だけでは不十分で、ITが扱っているデータがどこでどのように生成され、会計データに変換されているかという理解も必須です。データ分析は細かいところでは、そのデータが意味するところは何かということが企業活動と繋げて理解されていなければ、本当の意味での分析はできません。会計データに限れば、取引の記録から仕訳をバッチ処理で一年分をまとめて作ることだって可能なわけですが、この場合データの生成日と仕訳の取引日はまったく違っていることになります。
統計の知識
やはり統計は避けては通れないでしょう。数式を理解するというところまでは必要ないかもしれませんが、少なくともコンピュータのアルゴリズムの説明はできなければなりません。そうしないと、アルゴリズムのチューンアップやパラメータの説明ができなくなってしまいますので、一時的に統計処理を行って結果を出したとしても、単に出来合いの道具を天下り的に使っただけで、それ以上の発展は望めません。

まとめ

監査という業務は上記の綜合知の発現であり、Rないしはそれを用いた統計分析は、監査業務の一端である監査人の懐疑心の発揮という側面をサポートする道具に過ぎません。

すべての原点は監査人の懐疑心であり、経済・社会・ビジネス・組織・人・技術等、監査対象会社を取り巻くあらゆる事象に対する監査人の知的好奇心の集約の結果です。

  • [1]監査基準の設定について 昭和31年12月25日 大蔵省企業会計審議会中間報告監査基準

Last updated 2015-05-13 | auditR (c) N.Nawata