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リスク・目標・手続


3つの関係を理解せよ

ここでは、リスク、目標、手続の三位一体での理解が必要であることを記載した。

 財務報告に係るリスク(虚偽記載が発生する可能性)

財務報告に係るリスクとは、財務報告上の重要な虚偽表示が発生する可能性のことである。言い換えれば、財務報告が虚偽表示でないと主張できるための、個々の項目のアサーションが確立されない可能性である。

注意すべきなのは、財務報告項目が事実と異なる結果をもたらす「原因」をリスクと捉えることは踏み込み過ぎであるということである。

したがって、仕訳入力を誤るとか、売掛金が回収できないといった事象ではなく、「財務報告項目が事実と異なる要素」としてリスクを拾い上げる必要があるということに注意すべきである。

また、売掛金が回収できないというのは経営上のリスクではあるものの、それ自体は財務報告上のリスクではない。その回収可能性に関する経営者の判断が財務報告に反映されないことがリスクである。

 統制目標(虚偽記載がないことを主張できる状況)

統制目標とは、財務報告項目のアサーションが満足されている状況を、会社内部での具体的な表現形態に置き換えたものである。

例えば販売取引をとらえてみると、適正な財務報告という観点から、売上高及び売掛金が適正に計上されていると主張するためには、売上高及び売掛金の計上根拠となっている取引が「実在し正確である」ことが必要である。それをプロセス側の実務に落とし込むと、「その金額を支払うことを条件に」「引き渡された」という事実が最低限必要ということになる。

すなわち、売上計上された金額が相手先と合意されていることを疏明するにはどうすればよいか、相手先の注文に応じた商品が引き渡されたことを疏明するにはどうすればよいか、ということを考えて手続によって実現しなければならない。この手続が統制そのもので、実現されるべき事象が統制の目標となる。

一般にアサーションと統制目標とは同列に使われていることが多いが、ここではアサーションとは、財務報告の観点から一般化された言い方であり、統制目標とは業務観点に落とし込んだ具体的な言い方であるとして整理しておきたい。

例えば、

アサーション−売掛金の実在性
統制目標−商品が倉庫から運送業者へ引き渡されたこと(出荷)をもって、売掛金と売上が計上されること。

実在しない売掛金(架空売上)という財務報告に係るリスクが認識されれば、会社としては出荷という事実によって売掛金・売上が計上されるという統制目標を確立すべきことになる。

アサーション−債務保証の網羅性
統制目標−全ての債務保証は取締役会の決議によって承認され議事録に記録される。

簿外の債務保証という財務報告リスクは、「会社が認識しないところで債務保証が成立してしまう」という会社財産保全上のリスクと、「債務保証があっても財務報告として開示されない」というリスクの両方を含んだ概念である。そのような網羅性に対するリスクが認識されれば、網羅していることを主張するためには、「ここ以外の他にはない」ことを立証すればよいから、会社は保証行為自体を成立させる条件として取締役会の承認を議事録として残すという統制目標を確立することで、勝手な保証は会社に対する背任行為として対抗要件を持たせることになる。また、取締役会議事録に全ての保証を記録されなければならないという目標が同時に達成できることになる。

重要な科目 売上高・売掛金
財務報告リスク 売上・売掛金が過大、過少
アサーション 売上・売掛金の実在性、金額の正確性
統制目標 注文書の数量と出荷数量が一致する。出荷日付と売上計上日が一致する。出荷単価が既定の単価と一致する。

 統制手続(統制目標を担保する具体化された行為)

統制目標の逆になる事態が、未然に防止ないし適時に発見されるように整備される手続が統制手続である。

売掛金の実在性

例えば出荷の伴わない売上計上というリスクに対し、出荷指示に基づいてしか倉庫の商品が出荷できないというのは、架空売上リスクに対する予防的な統制である。また、出荷伝票に運送業者の確認記録をもらい売上リストと照合することは、架空売上リスクに対する発見的な統制である。

債務保証の網羅性

開示という観点からの統制手続は、債務保証の事実について取締役会議事録を通査して債務保証を網羅的に拾い上げて法務担当などが一覧表にし、開示担当などが議事録と照合して確認することになる。


※ちょっと一言

【本文脚注】


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