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管理会計とモニタリング


 管理会計と財務報告との関係

一般に会計には大きく二つの機能があると言われている。

一つは、会社外部の投資家や債権者が利用するための財務情報を提供する目的であり、もう一つは、会社内部の組織における業務従事者や責任者が、財務的観点からパフォーマンスを測定する目的である。一般に、前者を制度目的の会計(制度会計)、後者を管理目的の会計(管理会計)と称しているが、明確な定義があるわけではない。

制度会計を、債権債務の発生や受取・支払を処理する会計部分と、外部報告目的(開示)の情報を作成する部分とに概念区分し、それぞれ財務会計と制度会計とする考え方もある。

いずれにせよ、何をどういう測定基準で評価し誰のために財務情報を作成するかという点において、次のように分類整理できるだろう。

財務会計 管理会計
目的による区分 外部報告目的 業績測定手段・評価目的
想定利用者 投資家や債権者、取引関係者 経営者及び組織の運営責任者や業務担当者
収益、費用の認識、資産負債の評価方法 一般に公正妥当と認められた会計の基準にしたがって認識・測定・評価された情報 通常は左を簡便化した方法が多いが、利用者の任意による測定・評価方法が用いられる。
分類集計(表示)の方法 制度による分類科目を用いる財務諸表規則等による方法 左を意識した会社の勘定科目体系を使う方法ないし他の任意の方法(管理者の任意の視点により分類集計される)

こうしてみると、管理会計にも、損益の認識や資産負債の評価において制度会計の枠組みに従って行なわれるケースと、それ以外のケースとが想定されることになる。

 管理会計の業績モニタリング機能

モニタリングとは、組織の活動が想定どおりに機能しているかどうか、あるいは期待通りにパフォーマンスを上げているかどうかにつき、監視し改善を促す行為である。すなわちモニタリングには、パフォーマンス(財務、その他の業績)のモニタリングと、活動そのもののモニタリングとがあり、その中には統制活動のモニタリングも当然に含まれることになる。

管理会計の主たる目的は、投資効率、業務効率の測定であり、これは内部統制の4つの核となる目的のうち、「業務の効率性・有効性」の評価に関わるものである。

また、資産の評価などは、資産の価値保全や、やはり投資効率の測定などと関わってくる。

 必要な発想の転換

つまり、内部統制の基本要素(構成要素)として挙げられている、「情報の伝達」とは管理会計報告も当然に含まれている。複式簿記の原理で作成された財務情報が管理会計目的で利用されるということは、財務報告の適正性を確保する目的以外の目的を達成する手段として、財務報告が機能しているということになる。

さらに、資産の評価や投資効率・業務効率の測定を目的として導入された管理会計活動は、複式簿記の原理を通じてそのかなりの部分が制度会計に寄与していると判断できれば、財務報告の適正性という観点、業務の効率性という目的に対応したモニタリング概念と考えられ、管理会計活動と制度会計活動とはその手続の共通する部分がかなりあり、またその効果の及ぶ範囲は相互補完的であると言えるだろう。

内部統制キューブとの関係

目的
内部統制の基本要素↓ 財務報告の適正性確保 業務の効率性・有効性の促進
<情報の伝達> 管理会計分析報告
<モニタリング> 管理者によって行なわれる管理数値の判断、業務現場で行なわれる異常値の分析

管理会計活動による財務報告の適正性への貢献

業務効率改善の一環として行なわれる監視活動
管理会計活動 財務報告への貢献
販売利益率等の組織別分析 売上高や利益率などの異常性からの誤謬や不正の発見。共通原価配賦のエラーの発見。また監視されていることによる牽制効果。
顧客別採算管理 同上
経費の予算実績比較分析 継続的監視データによるのベンチマーク提供効果とそれを用いた月次監視による異常性の発見。
投資効率管理の一環として行なわれる監視活動
管理会計活動 財務報告への貢献
子会社の事業計画の吟味と投資回収期間の評価 子会社決算の異常性の発見。毎期の投資評価根拠への信頼性の付与と情報の提供
設備稼働率の把握分析 減損評価への根拠データの提供と、モニタリングによるデータへの信頼性付与
資産の保全の一環として行なわれる監視活動
管理会計活動 財務報告への貢献
在庫の滞留期間分析と正味回収可能価額の評価 決算期末における在庫評価方法への信頼性の付与と在庫評価におけるベンチマーク提供機能。
売掛金の滞留期間分析と回収可能性評価 回収業務への信頼性の付与。滞留管理の信頼性の付与と回収可能性評価におけるベンチマークの提供。

 内部統制としての業績モニタリング

上記を換言すれば、管理会計目的で生成された情報であっても、その比較・分析の過程において不正や誤謬等が発見される可能性が十分にあるわけであり、そのフィードバックによって、本来の目的ではないものの管理会計を緻密かつ適切に行っている場合には、管理会計活動が、財務報告の適正性を担保する一つの重要な位置づけを占めるものと考えられる。

すなわち、財務報告に係る内部統制という観点から捉えた際に、最も重要な位置づけを占める全社統制は、管理会計を通じた監視活動である。

財務報告の適正性に係る直接的な統制活動、つまり、誤りや不正を防止発見することを「意図して」整備された統制手続ではないものの、監視活動を通じて財務報告上の異常点が把握され分析され必要に応じて訂正されるという点においては、管理会計は財務報告の適正性を担保するために必要な諸要素を有しているプロセスと捉えることができる。

また財務諸表全体としてのレベルではなく、財務諸表を構成する組織のレベル、あるいは個々の活動のレベルの情報であるため、情報としては全社決算よりも詳細なレベルのものであるから、重要な虚偽記載をもたらす不正・誤謬を防止発見するレベルをより満たしていることになる。

さらに、このようなモニタリングがあることは、不正を起こす機会をより軽減しているとも考えうることから、その牽制効果は一つのコントロールとしても捉えることができるだろう。

財務報告の適正性に係る内部統制を支えているのは、個々のコントロール活動やそれらに対するモニタリングというよりは、外部報告目的のために生成される会社内の財務情報その他社内管理に必要な情報を用いて行なわれる管理会計によるモニタリング活動が、かなり重要な部分を占めていると考えられるのである。言い換えれば、資産の保全・評価や業務の有効性・効率性の測定という観点から会計システムを見直し、運用していくことこそが、結果として財務報告の適正性の確保に大きく貢献し得ることになる。


※ちょっと一言
  • 経営学でサバネティックな理論がありますが、モニタにリングは、まさにそれ。フィードバックのないシステムは暴走してしまうと思います。 - shibayan (2008年04月05日 19時17分43秒)
  • システムの暴走はプログラムでよくやる「無限ループ」と同じです。ループが収束型ならいいけど発散型ならプルトニウムの臨界点到達を招きますね。だから、人間がモニターして人間が「割り込み」をかける必要があるのです。これを人間がシステムに組み込まれているというか人間がシステムを制御しているというかは、主観=客観モデルを超越した現象学的なアプローチが必要かもしれません。 - なわ (2008年04月06日 10時57分52秒)

【本文脚注】


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