!!!企業価値創造とKPI 本章では、企業価値創造とそのモニタリング方法としてのKPI、そしてKPIと会計との関係について議論してみます。 !!「価値」概念 企業価値、事業価値、株主価値については書物によって定義が異なるため、日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」を参考に以下のように決めておきます。 企業価値=事業価値+非事業資産価値・・・・(1) 株主価値は、企業価値から債権者価値(負債価値)を差し引いたものとして定義されます。 株主価値=企業価値−債権者価値(有利子負債)・・・・(2) 二つの式が表現していることは、企業価値の見方には二つの側面があるということです。すなわち、(2)式では企業に対してお金を出している人から見た価値で、いわば法的根拠に裏付けられた価値です。 また(1)式はビジネスそのものが生み出すキャッシュフローでいわば生産手段としてみた価値とでも言えましょう。 しかし、この定義でもう一つ重要な「価値」が抜けているのは、社会的分配という側面です。つまり、顧客、従業員、取引先、地域コミュニティといった企業と関わりを持つ人々から見た価値の合計です。 企業価値=顧客価値+従業員価値+取引先価値+地域価値・・・・(3) 従来は、株主価値最大化が経営者の役割とされてきました。(2)式はよく見ると、 純資産=総資産−負債 という貸借対照表の構造とたいへんよく似ています。これが、債権者と株主との「取り分」を明確に分ける会計の考え方と相俟って、会計に対してはいまだに過度に売買対象となる企業の時価を強調した会計基準導入の動きがあります。つまり、「総資産」の各項を何とかして時価評価してしまえば、負債の清算価値を控除することで、純資産が株主価値を表現できるとする短絡した考え方です。 しかしながら、本来の会計の役割は、企業の状況を客観的な金額で表現するところにあり、特定の利害関係者を代表した数字を算定することではありません。昨今、この考え方はCSR(=Corporate Social Responsibility)として注目されており、地球環境問題や、差別、貧困、飢餓、紛争、疫病といった社会的問題を解決することが、企業の重要な役割であるという認識が広がっています。 例えば、環境会計やCO2排出権取引など、環境分野では財務数値に置き換えて表現する方法が確立されつつあります。 したがって、多方面から見た財務数値の報告が求められているだけでなく、それらを補完する情報の開示も求められるようになって来ています。 !!KPI(Key Performance Indicator)とは このような多様な「価値」を、それを生み出す要素に分解して、個々の活動とリンクさせたものがKPIと呼ばれるものです。KPIは業種業態によってある程度、同じ様な内容になりますが、逆に「価値」に向けてKPIをどのように設計するかというのは、企業戦略と会計戦略とをリンクする重要なファクターとなります。また、同じKPIを用いている会社であっても、何をどのように重視・優先するかは、企業戦略の遂行成果を測定する会計の役割からすれば、各企業の個性が現れる部分といえるでしょう。 !(蛇足)企業買収と価値の関係 上記(1)(2)式から以下の関係が導出できます。 株主価値=事業価値+非事業資産価値−債権者価値(有利子負債)・・・・(4) この関係が示していることは、株主価値を構成する要素として非事業資産の価値があるということですが、非事業資産は収益を生まないため本来は株主に分配されるべきものです。したがって、非事業資産を含む株主価値は見かけの株主価値であり、実質的な株主価値は、 実質的株主価値=株主価値−非事業資産価値=事業価値−債権者価値・・・・(5) と計算されます。 買収者から見れば、事業に投入されていない非事業資産の価値が高ければ高いほど買収しやすい会社であるということになります。なぜなら会社の支配株主になった場合には、非事業資産は事業とは無関係に処分が容易であるため、支配株主となろうとする立場から見れば、買収時の必要資金がそれだけ少なくて済むからです。