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ユニバーサルサービスとは
この言葉は極めて曖昧に使われています。
ひとつは、「ユニバーサルデザイン」という言葉と類似した意味で、「誰でも分け隔てなくサービスが使える」という意味です。老人、子供、身障者など、一般に社会的弱者と言われる人たちでも、支障なく利用できるという意味です。この意味においては、最近ではユビキタス[1]社会という言葉が使われるようになってきています。
もうひとつは、「あまねく公平に」という意味です。これにも複数の概念があって、「同一サービスなら均一の料金で」という意味と、「需要があればどのような場所でも」という意味とが込められています。さらには、「同一のサービスレベルで」という意味もあります。
ユニバーサルサービスの様々な分類定義
林・田川(1994, p27)では、ユニバーサルサービスのいろいろな定義を紹介しています。
- 「直ぐつく電話」「直ぐ繋がる電話」のうち前者
- 日本の電気通信事業法の考え方
- いわゆる「あまねく公平原則」
- 米国商務省電気通信情報庁
- 何処に住んでいても利用可能なこと availability
- 電話に加入し利用することが経済的に可能なこと affordability
- OECDレポート[2]のユニバーサルサービス
- 全国何処に住んでいても電話を利用できること universal geographical access
- 誰でも経済的に電話を利用できること universal affordable accesss
- 均質サービスが受けられること universal service quality
- 料金について差別的取り扱い(price discrimination)がないこと universal tariff
ユニバーサルサービス義務
上記のように様々な考え方のある「ユニバーサル・サービス」ですが、電気通信の世界では「義務」という言葉と併せて「ユニバーサルサービス義務」という言い方をされます。また、ユニバーサルサービスというときには、通常、この「義務」という言葉を含めたものとして使われていることが多いようです。
通常、どういう顧客をターゲットにしてサービスを提供するか、またどのように価格設定するかは、企業の事業戦略によって決定されその戦略の妥当性は価格決定メカニズムを通じた市場の選択に委ねられるというのが一般的な考え方です。例えば、顧客の多い都市部だけでサービスを提供し、相対的に人口の少ない過疎地域ではコスト高になるからサービスを提供しないというのは、一つの事業戦略といえますし、お金持ちには付加価値の高いサービスを提供し、庶民には平均的なサービスを提供するなども同様です。しかしながら、ネットワーク産業に属する事業者は、その一部のサービスについて「ユニバーサルサービス義務」が課されているものがあります。
通信事業者のユニバーサルサービス義務
この義務を課せられた通信事業者は、通常以下のような制約が加わります。
- 経営上の合理性を理由にサービス提供を拒絶できない
たとえ山奥や離島などどのように不便な場所であっても、そこで生活している人が電話を使いたいと望めば、電話線を引いてサービス提供をする必要があります。
- 差別的料金を設定できない
例えば離島に電話を引けば、利用者は限られますから、相対的にコスト高になることは間違いありません。設備投資を回収しないまま、設備の更改時期が到来することも十分考えられます。通常のビジネスであれば、コスト高は需要がある限りは価格に反映されますが、ユニバーサルサービス義務のある事業者のサービスにおいては、そのような差別的価格の設定は認められません。
ユニバーサルサービス義務にまつわる諸問題
- 事業者の義務なのかサービスの義務なのか
この義務は、事業者に課されるため、事業者の責任において義務は履行されることになります。しかし、その事業者が提供する全てのサービスがこの義務の対象であるかどうかは明確ではありません。
- 特定事業者のみへの義務
サービスを提供している全ての事業者にこの義務が課されるわけではないようです。したがって政策当局は義務を課す理由(それは国民福祉の維持であっても)だけでなく、義務を課された事業者が選定された理由をも説明する責任があることになります。当然に権力によって一部事業者に義務を課すことになれば、その補償策も考慮する必要が出てくるでしょう。
- 対象となるサービス種別とそのレベル
たとえば電話が使えればよいのであれば、携帯電話の電波が届く場所であればあえて高いコストをかけて固定電話サービスの提供を義務付ける道理はありません。しかし広帯域のデータ通信を提供することを義務付けるのであれば、話は違ってきます。どういったサービスを「ユニバーサル」なものにする必要があるのかという問題があります。
以上の問題は突き詰めれば事業の経済的合理性と国民福祉レベルの維持コストの調整の問題と捉えることができるでしょう。
最終更新時間:2008年01月02日 17時44分17秒