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会計の分類

【私的草稿】通信事業会計

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このページの見出し構成


1-2-2 会計の分類

 1-2-2-1 管理会計と財務会計(利用目的を意図した名称)

管理会計と財務会計は、筆者は単に観点の違いとして捉えていますが、会社によっても色々な立場や考え方があって、一概に分類できません。両者の違いは、会計事象が捉えられ会計データとして会計処理プロセスの中に入ってから決算書ができるまでの集計過程についての議論と、出来上がった決算書をいろいろな角度で分析していき、業績変化の原因を究めて次の経営アクションにつなげるための議論です。一般的には前者を財務会計と言い、後者を管理会計と言っているようです。

しかし会計の根本に立ち返って、そもそも、両者を区別する意味がどれだけあるのか筆者にはよくわかりません。あるいは、会社内で数字を積上げる人と数字を分析する人とがそれぞれ行っている作業を区分するくらいの意味はあるかもしれません。

もともと会計が対象としているのは企業の活動であって、それを法律に基づいて外部に報告するのが制度会計、内部で利用するのが管理会計であるとすれば、両者は並び方や表示の方法論の違いだけであって、制度会計の裏付けが会社自らによる分析(すなわち管理会計)を反映した結果であることは議論の余地はありません。

尤も、利用目的が異なることから、管理会計のほうがある種のみなし計算を含む簡便な方法を採用したりすることはあります。例えば簡便計算を採用したため原価差額の配分を行っていないとか、減価償却計算は年間見込み額を月割しているといった理由がはっきりした差異は問題ありません。逆にそれが最終的に外部にディスクローズされる財務会計数値と乖離しているようでは、管理会計による業績マネジメントが財務会計の裏付けになっているとは言えなくなります。

こういった差異をどこまで許容するかは会社の管理目的からの判断であり一概に正解はありませんが、原則は、月次決算(管理会計)の積上げが年次決算(財務会計)であり制度決算として開示されるというところに到達点を置くべきでしょう。

04年10月06日

 1-2-2-2 管理会計と制度会計(作成様式を意図した名称)

管理会計は会社が任意で行う月次決算などを含みますが、制度会計は取引所のルールで行われる四半期の開示と、証券取引法で行われる中間決算、期末決算の開示、及び、商法に基づいて行われる年度決算の開示があります。

制度会計は表示すべき科目の名称から重要度、並べ方まで、決められています。特にルールとしてそのように定める必要があるのは、財務情報が比較されることによってより意味を持つからです。それは投資家が投資意思決定を行う際に、他の投資先と比べてどれだけ魅力があるのか、過去と比較してどれだけよくなっているのかという相対的観点で財務データを利用するため、比較可能性の確保ということが大きな命題になるからです。

一方で、管理会計は内部で用いられるものを指すため、勘定科目の集計や表示の方法に決まったものはありませんが、総資産、純資産、損益項目(売上高や、経常損益など)などの「大枠」の情報は一致して(あるいは合理的かつ簡単に両者の調整が可能になって)いる必要があります。それは管理会計と財務会計の項で議論したとおりです。

04年10月06日

 1-2-2-3 税務会計と財務会計(計算目的を意図した名称)

これには大きな違いがあります。

税務会計は、法人税法に基づく課税所得を算定して納税額を計算するという重要な目的があります。法人税法では、企業会計における収益が益金、費用が損金であるという大原則がありますが、両者が同じものかというと、税務会計と財務会計とは大きく異なっています。むしろ法人税法で定められているいろいろな規程は両者を異ならせる大きな要因となっています。

例えば会社が財務会計上は費用として処理する交際費や寄附金は、法人税法上は限度額が定められており、その限度額を超える交際費や寄附金は、たとえ財務会計で費用として処理されたとしても、税務会計では損金として扱われません。

その他、減価償却の耐用年数なども税法では耐用年数表という形で詳細にきっちりと定められており、会社が独自に短い耐用年数を用いてより多くの減価償却費を計上しても、耐用年数表を用いて計算した額を超える部分は、「減価償却超過額」として翌期以降の損金として繰り延べられてしまいます。経営管理上の必要性から財務会計上認識された資産の評価損(棚卸資産の陳腐化によるものや、有価証券の時価の下落によるものなど)も、財務会計上の費用であっても、税法上は損金として認められないなど、両者にはいろいろな違いがあります。

課税所得の計算は会社の作成する財務会計の決算書をベースにして、法人税の申告書の上で税務会計と財務会計の上記のような違いを反映して計算したものを、課税所得として算定することになっています。したがって、会計の目的からすれば財務会計が主であり税務会計が従という関係になります。

従来は、「税法基準に基づく会計処理」という主従逆転の現象が見られましたが、決算開示が個別から連結重視へとシフトしたことや、税効果会計の導入によって課税所得と期間損益との乖離による期間利益に対する税金費用の影響額が調整されるようになったため、税法をベースにした財務決算ということ自体が認められなくなり、より経済実態を重視した本来の財務会計を実践するようになりました。

04年10月06日

 1-2-2-4 業績測定会計と意思決定会計

 1-2-2-5 資金効率測定と配当可能利益計算

会計の目的の一つに分配可能利益計算ということがあります。

分配可能利益とは、配当金や役員賞与などの社外分配を行う際に貸借対照表の資本の部の一定範囲までという上限が商法で定められており、この上限額を分配可能利益といいます。

なぜこのような限度額が必要であるかといえば、株主の有利になるようにいくらでも配当可能であるということになれば、会社財産を唯一の担保としている債権者側の利益を害するからです。商法は債権者と株主との間の利害の調整を、この分配可能利益計算体系を定めることによって実現しています。債権者を保護するために株主の利益に一定の制限をかけているということもできます。換言すれば財務会計とはこの分配可能利益計算のフレームワークに基づく会計でもあります。

一方で、株主から見た会計目的とは最終的に自分の持つ株式がいくらの価値になるかという点に重点を置いているといわれます。いわば一定期間に会社の価値がどれだけ増大したかということを問題にします。両者の違いは利益概念の違いにそのまま反映されます。利益とは一定期間の企業活動による価値の増分ですが、これを事業活動に基づく付加価値創造の積算によるものと捉えるか、投資価値の増分と捉えるかという形であらわれます。

これが最も端的に現れるのが投資有価証券の評価に対する考え方です。株主から見れば会社が投資有価証券を購入することは間接投資を行っていることになります。したがって投資価値の増減をそのまま利益に反映しようとする考え方が出てきます。一方、債権者から見れば会社が投資有価証券を購入することは直接的な事業活動とは関係ないと考えればたとえ時価が変動しても事業活動による付加価値を創造したとは言えないでしょう。

このような考え方の対立を調整するのが会計制度の社会的な役割であり、現在の会計制度では投資有価証券の評価益は、損益計算書による利益計算には含まれない(つまり分配可能利益を構成しない)が有価証券評価差額として貸借対照表の自己資本を構成するという扱いになっています。

キャッシュフローへの注目も両者の違いの一つに挙げられるでしょう。一般に、損益計算書は「価値の創造」、キャッシュフロー計算書は「現金の増加」を表現したものですが、資金効率を図るという観点からはキャッシュフローへより注目することになります。

以上の議論は、そもそも「価値とは何か」「どうやったら計ることができるのか」という命題に対して、「ずばり、現金である」と答えるのがキャッシュフロー計算書であり、「いやいや、価値は本来別のところにあって、現金はそれを表現する手段に過ぎない」という前提のもとに議論されるのが損益計算書です。

NPO法人というのが昨今はやっていますが、NPO法人は収入の多くを寄附に、また活動の多くもボランティアに依存しています。例えば、100の寄附金と、一般に購入すれば200の賃金が必要な労働をボランティアによった場合にどのような会計処理になるでしょうか。キャッシュフローに着目するのであれば、
借方 金額 貸方 金額 摘要
現金 100 寄附金収入 100 キャッシュフローに着目

価値に着目するのであれば以上とは別に、

借方 金額 貸方 金額 摘要
賃金 200 寄附労働収入 200 「価値」に着目

という処理が加わることになります。以上はたとえ話であり、NPO法人の会計ルールとは処理が異なっています。

04年10月07日

 1-2-2-6 会計(財務)情報と利益測定との範囲の違い

現在の会計は利益測定の方法論の上にいろいろな管理目的を達成するように調整しながら制度が構成されているという話をしました。しかしいくら努力しても利益測定のフレームワークの中に全てを収める事は端から無理があり、会計への過剰な期待とも言えます。

最も議論されているのが、「経営実績を測定する」という概念の中に将来に関する情報が利益測定体系の中に入ってもよいのかという観点で、繰延税金資産の計上の問題があります。繰延税金資産は税効果会計という会計ルールの中で計上される資産ですが、税効果会計とは、税務会計による所得計算と財務会計による利益計算とで全く同じ取引でも認識のタイミングにズレが生ずる事象について、会計上調整しようという技術です。言葉でいうと分かりにくいのですが、数値例を用いて説明します。

期末に在庫の評価損を50計上した結果、100の税引前利益を計上している会社があったとします。素直に考えれば、会社の負担する税金は税率40%とすれば、

100×40%=40

となりますから、期間利益は

100−40=60

となるはずです。しかし、在庫の評価損50は税務会計上は損金として認められませんから実際にこの在庫が販売されて売上原価として認識されなければなりません。つまり当期の税引前利益は100であっても課税所得は

100+50=150

となり、負担する税額は

150×40%=60

となります。これをそのまま損益計算に反映すると、会社の期間利益は

100−60=40

となります。つまり在庫の評価損50に対する税金相当額40%(つまり20)だけ、税金費用が早く計上されます。これは翌年度にまったく同じ税引前利益が計上されたとすると、翌年度の税負担額は

100×40%=40

となるはずが、前期に計上した在庫の評価損50が認容され課税所得が減算されるので、結果的な税負担額は

(100−50)×40%=20

となります。

項目 当期 翌期
税引前利益 100 100
在庫評価損 50 −50
課税所得 150 50
税金(40%) 60 20
期間利益 40 80

第一期も第二期も全く同じ額の税引前利益100を計上しているにもかかわらず、課税所得の違いによって税負担額は第一期が60、第二期が20となるため、期間利益は第一期が40、第二期が80となってしまいます。このとき第一期における税金20は会計上は将来の税金の減算効果があるとして税金の先払いと考え、これを繰延税金資産として計上し損益計算書の税金費用から控除します。

項目 当期 翌期
税引前利益 100 100
在庫評価損 50 −50
課税所得 150 50
税金(40%) 60 20
税効果 −20 20
正味税金費用 40 40
期間利益 40 80

以上が、税効果会計の概括的な考え方ですが、ここで問題があります。上記で第二期は税引前利益が100という想定をしましたが、仮にこれがゼロという想定であればどうなるでしょうか。もしそうであれば、第二期の課税所得見込み額は、

0−50=△50

というように欠損金が発生してしまいます。別の見方をすれば、せっかく第一期で計上した税金の減算効果も第二期の課税所得がないために、その効果が現れないことになります。そういう自体が予想されるときは、第一期の税効果は認識できないというルールになっています。

つまり、当期の繰延税金資産が認識できるかどうかは、翌期の課税所得見込み(つまりその前提となる業績見込み)に依存する部分があり、そのような「期待値」を利益として織り込んでよいのかという疑問が当然に発生します。

一方で、こういった将来の税金支払の減算効果は「情報」としては有用なものとなりますので、財務情報として提供されることは有意義なことだと言えるでしょう。

このように、情報として有用であるから開示して投資家や債権者に提供するという考えと、これを利益に反映させて分配可能利益を調整するという考えとは、まったく次元を異にした議論であるということを知っておかなければなりません。

会計の大切な役割として利益測定という機能が挙げられますが、それだけでは会社の財務実態を把握するのに不十分だから、その他の財務情報が提供されているわけです。貸借対照表と損益計算書で表現するのはあくまでも利益の測定であり、必要な情報は別のところで開示するというのが基本的な考え方であることは論を待ちません。

04年10月07日


最終更新時間:2007年12月02日 14時44分52秒