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顧客特性

【私的草稿】通信事業会計

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このページの見出し構成


 低い乗換コストと顧客の強い交渉力

非常に競争が激しい市場において、類似するサービスが提供されている場合には、一般にサービスの供給者は価格を下げることによって新たな顧客を掴もうとします。経済学の教えるところでは、競争市場における財の価格は限界生産コストに収斂することになっています。仮に通信事業者にこの理屈を当てはめると、通信サービスは短期的には通信量の変化があってもコストには影響が出ませんから、限界費用はほぼゼロであると言えます。結果的には通信サービスの価格はゼロとなってしまい、事業者は永遠に投資が回収できなくなるため、もし本当にそうであれば、市場が成り立たなくなってしまいます。

マスユーザ向けの料金競争をすると、事業者は体力勝負となるか共倒れとなってしまいますので、料金水準はあるレベルに収束することになります。実際の電話料金は監督官庁へ届出た約款に定められますから、簡単に値下げできるものではありません。そうなると、事業者が次に選ぶのは利用者をなるべく自分の方に向けさせ自社のサービスを利用してもらうことです。そのための諸々の販売プロモーション活動を行い、顧客獲得のためにコストを払います。例えば、xDSLアクセスサービスの初期工事費の無料化や、ISPの加入当初数ヶ月の料金を無料化したりするのは、販売プロモーション活動の現われです。このようなプロモーション活動があれば、初めての利用者は金銭負担が軽くなりますから、利用障壁が低くなり「ちょっと使ってみるか」という気持ちになります。また、同時にそれは、既存利用者がある事業者のサービスから他の事業者へのサービスへ乗換る際の垣根が低くなることも意味します。

次に大事なことは、一旦獲得した顧客を手放さないようにすることです。顧客獲得コストが経営上の合理性を持つのは、それを負担することによって獲得した顧客が一定水準の通信サービスを継続的に利用することによって事業者が収入を上げることで、獲得コストがいずれは回収できるからです。顧客を手放さないようにするためには、料金計算・請求・回収サービス(いわゆるビリング)などの不可避的コストがかかるだけでなく、故障や苦情へ対応するための電話応対窓口などの設置が必要であったり、利用者宅へおもむいて機器を調整・修理するなどのサービスも必要となってきます。このようなコストが顧客維持のためのコストとなります。ビリングは必須の業務ですが、故障対応などは頻繁に起こるわけではないので、利用者にとっては困ったときだけに必要なサービスです。裏返せば、故障などがなければその事業者の魅力をあまり訴求できないわけですから、事業者としてはジレンマです。つまり他に利用者を常にこちらに向けておくための施策が必要になります。例えば、いろいろなキャリアが導入している「ポイント制度」などは解約するとそのポイントのメリットが失われるために、利用者は解約を留まるだろうという考え背景にあるでしょう。また契約期間が長くなればなるほど通常の料金からの割引率が高くなる長期利用割引などは乗換コストを高くする手法と言えます。

このように通信サービスは利用者の乗換コストが低いために、利用者は価格に敏感に反応し、サービスを選択するようになります。事業者は、外部顧客を取り込むために乗換コストを下げる諸施策を採ると共に、一旦獲得した顧客を手放さないように、乗換コストを上げる施策を採ります。畢竟、利用者側の形を変えた値下げ圧力(価格交渉力)が高まっているということになります。

 仕向者と被仕向者の存在

 利用者、課金者、支払者

 受益者はコンテキスト次第


最終更新時間:2007年12月01日 13時10分06秒