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通信事業とIT

【私的草稿】通信事業会計

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このページの見出し構成


1-6-7 通信事業とIT

 1-6-7-1 取引概念の変化

会計の勉強は簿記から始めることが端的に示すように、従来から会計は個々の取引を仕訳という形で地道に積み上げ集計して、必要な決算整理仕訳を行って、貸借対照表や損益計算書を導出するというステップを基本としています。

しかしながら、昨今の会計制度の改正は決算数値に対する決算整理仕訳の影響が非常に大きくしてしまいましいた。例えば繰延税金資産の回収可能性の判断によっては、税引前利益の40%強に相当する実効税率分だけ、期間損益に影響を与えてしまいます。退職給付会計では、退職給付年金の運用が市場で行われているため、市場の変動がもろに数理計算差異として現れてしまいます。投資有価証券の時価評価は、直接的には損益への影響が出ないこともあるにせよ、証券相場の動きによっては自己資本を大きく変動させます。

このような会計制度の変化は、企業の財務リスクをより如実に顕在化させることになるため、従来のような、発生した取引をコツコツと仕訳によって寄せ集めるという考え方では、たとえ決算書を作成できたとしても要求されているリスク管理には十分に対応できないということになります。

会計制度の変化は、会計制度の役割を取引を記録して決算書を作成するという役割から、財務的な観点からリスクを管理するという役割へと、大きなパラダイムシフトをもたらしました。決算書の作成が依然として重要な役割であることは否定できませんが、その相対的な地位は下がってきており、むしろ決算書はできてあたりまえで、日常のリスクマネジメント活動の結果が自ずと決算書になってしまうことから、いかにしてリスクを早期に把握してコントロールできるようにするかという発想で、業務見直しに取り組む必要をもたらしました。

このような概念変化は、会計における「取引」の考え方の変化をもたらしたと考えられます。従来の会計は、売上や仕入などの事業活動や、借入や返済などの財務活動を中心に基本的には債権と債務の変動を管理しておけばよかったわけですが、現在の会計はそういった取引を実施したことから派生するリスクを捉えるために、企業がいまどの程度のリスクに晒されており諸条件の変化があった場合に数々の経営パラメータが財務的にどのように影響するかというリスクエクスポージャを管理しなければなりません。例えば、メーカーが工業製品を販売した際には、従来は製品の故障などによる保証修理の可能性と、何らかの理由による返品の可能性と、売掛債権が回収できない可能性を考えていればよかったわけです。しかし、製品の誤使用により顧客が怪我をしたとか、顧客情報の漏洩とかいうところまで、財務的な観点から考えなくてはならなくなっています。

こういった傾向は、配当可能利益を計算して株主と債権者との間の利害バランスを調整するという会計が本来持っていた役割に対する過剰な期待であり、そのようなリスクを財務情報として捉える必要があったとしても、これを決算情報に含めることと決算書とは別の部分で開示することは混同されるべきではない、経営者の経営責任とその一部である経営者の利益責任とを混同した議論であるという考え方も根強くあると思います。

さはさりながら、会計人はそういった社会的変化へと対応していかなければならないことも一面の真理であって、頭の痛い問題です。

2004年10月11日

 1-6-7-2 契約の管理が最も重要

このような取引概念の変化に応じて最も必要なことは「契約」を管理するということになります。契約とは顧客、仕入先、金融機関などと取り交わす書面上の約束事ですが、ここでは広い意味で社会との契約という形で捉えなおしてみることが求められているのではないでしょうか。

契約行為自体は広義であれ狭義であれ直接的には資金の移動をもたらしませんから、従来の取引概念で言えば、仕訳を発生させる事象にはなりません(でした)。例えば、貿易取引で為替予約を締結することは将来の円決済額を確定させるために、実際に貿易で発生した資金が決済されたときに為替予約を実行してその円決済額で帳簿に記帳すればよかったわけです。しかし、考え方によっては外貨と円貨との換算レートを決めると言うことは、一方で為替変動リスクを回避していることになりますが、他方で為替が有利に動いてもそのメリットを享受できないというリスクもあることになります。また予定通りに外貨が入ってこなければ、そもそも外貨リスクを回避することはできない場合も考えられます。これが為替予約という契約を管理して、予約したことによるリスクを捉えましょうという考え方になっていきます。つまり、契約をするということは将来における何らかの行動を約束することですから、それが権利であれ義務であれ、財務的観点からは、権利が十分に得られないリスクや義務が予想以上に大きくなるリスクとして考えなければならないということです。

実際にどういった契約を管理し、どういったリスクがあり、どこまでを財務情報として把握し、どこまでを決算に反映するかというのは、個々の会社において全て事情が異なるため、一般論として言えば会計制度の決め事に従うというのが答えになってしまいます。

初稿:2004年10月03日

 1-6-7-3 顧客との契約

そんな中で通信事業者に限定して考えると、ある共通項が見えてくるかもしれません。やはり最も重要なのは、顧客との契約でしょう。商製品を販売して利益を上げる事業と異なり、通信事業はネットワークサービスを時間と容量とで区分けして顧客に利用してもらうビジネスですから、その収益構造は個々の取引(つまり一回事のサービスの利用)よりも顧客の利用行動傾向と契約種別によって大きく影響されます。

M&Aなどで事業を買収(売却)する際に用いられるキャッシュフローを見積もる際にも、結局はその事業が有している顧客との契約がいくらの価値を生み出しているかということが問題になるわけですから、顧客ベースが最も基本となる財産でしょう。つまり財務会計では資産としては認識されない顧客も、実は潜在的には非常に重要な資産であると言えますから、裏を返せばこれを失う可能性は重要なリスクになるわけで、当然に管理すべき対象となります。

基本データとして必要なのは、顧客属性ごとにどのような契約が締結され、それらがどのようなキャッシュフローを生み出しているかということがわかることです。契約データや料金データは、ほぼITにより管理されている(取引規模を考えればITを用いない管理は不可能)わけですが、ポイントは財務的観点からのデータが生成されることにあります。例えば、会計期間が月ぎめで動いているのに対して、料金計算期間が仮に旬ごとであれば、計算上の同期が取れていないために財務データの分解として管理データを用いられないことになります。

同じサービスを利用していても、料金プランが異なれば当然に異種の契約と考えるできですが、値引などの影響を見たい場合には、正味流入のキャッシュフローで見るのではなく、一旦グロスの数値で収入を捉えて、値引の大きさを同じくグロスで捉えることで、正味収益の変動の影響が、利用態様の変化によるものなのか料金政策の影響によるものなのか分解して把握できます。

初稿:2004年10月03日

 1-6-7-4 概算計上処理と契約情報

 サプライヤとの契約

 金融取引の契約


最終更新時間:2007年12月02日 18時38分55秒