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電気通信事業会計規則

【私的草稿】通信事業会計

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電気通信事業会計規則

 別記事業会計

通信事業者に限らず、電力、鉄道、ガスなどの事業者は、それぞれの監督官庁が定める会計規則(省令)に従って会計を作成・報告する義務があり、一方で、会社法や金融商品取引法の会計規則の中では、「別記事業」としての扱いにより、そういった「事業会計規則」に従う限りは会社法や金融商品取引法に定める会計規則に従った扱いがなされます。つまり、会計においては一般企業と異なった扱いがなされているというのが現状です。

通常、会計規則には記載する勘定科目や財務諸表の様式あるいは注記に必要な情報など「開示」に関する規則と、収益や費用の認識方法や資産の評価に関する方法などの「計算」に関する規則とがあります。別記事業会計規則においては、事業特有の状況を反映した科目表記方法や明細表の様式が定められています。

 電気通信事業会計

通信事業者においては、全ての通信事業者ではなく「指定電気通信役務」「基礎的電気通信役務」を提供する事業者が、この規則に服することになっています。電気通信事業会計規則は、その制定目的を「競争阻害的な料金設定を防止し、もって料金の適正な算定に資する観点から作成が義務付け」ているもので、通常、証券投資家や債権者の保護を目的として行なわれる金融商品取引法や会社法に基づく会計とは目的を異なるものとなっています。

電気通信事業会計規則は、電電公社が民営化された1985年からある古い規則ですが、その内容は順次改定されてきています。しかしながら、上記のような基本的考え方に基づく会計は、以下のような観点から、もはや時代に馴染まなくなっているのではないかという疑問があります。

料金が認可制から届出制になった

民営化当時の通信料金は監督機関である郵政大臣の認可が必要でした。その後、NCCの参入など時代の変遷とともに、規制が緩和され、現在ではほとんどの料金が届出制になっています。そういった中で、料金の正当性を監督する方法この会計規則が機能しているかどうかは、きちんと評価する必要があるでしょう。

技術進歩

電気通信事業会計規則の基本的な発想は、通信サービスごとに原価を集計してサービス別収益と対応させて、サービス別収支を算定しようとするものです。しかしながら、往年のようにサービス別にネットワークが組まれている時代ならまだしも、現代のようにバックボーンはMPLSなどの技術により各サービスが共用化され、IP通信技術の発達により各種のサービスが同一のケーブルで重畳化されて提供されるようになってきているいま、サービス別に直接認識できる原価範囲は非常に小さくなっているものと考えられます。また、サービス自体も例えば市内通信とADSLとが一緒の銅線で提供されたり、光ケーブルにより電話とインタネットアクセスとが同時提供されるような時代になってきている中で、サービス別の収支というものの持つ意味は、まったく異なっていると言えるでしょう。

市場の変化

技術進歩を踏まえ、市場は役務単位でのサービス提供という概念(これを仮に垂直的という)から、バックボーン回線、アクセス回線、インタネット接続、ネットワークサービスなど、水平的な概念に変化してきました。つまり、A社のケーブルを用いて、B社がネットワークサービスを提供し、C社がシステムインテグレーションして、D社がそれらをひとつのパッケージとして使うというのも当たり前の時代です。

計算方法としての問題

通常、製品価格計算に用いられる社内利用会計と、市場製品販売価格を与件として処理された外部報告会計とは、計算思想や構造が全く異なります。前者は意思決定会計とも言われ、短期的(当面の販売戦略.今日明日ないし数週間、季節など)、長期的(製品ライフサイクル。製品により数ヶ月から数年に亘る)それぞれの観点から投下資金を回収するために価格をどのように決定すればよいかを考える会計です。一方、後者は価格決定をも含めた事業活動全般を通じて一定期間(通常は1年)で企業価値がどのように変化したかを測定・報告することを目的としています。両者を同じ土台で測定できれば、それは理想ですが、価格決定目的と外部報告目的と双方において、それぞれで議論すべき問題ではないでしょうか。

目的適合性

事業会計規則は、「料金の適正さ」を評価するためとしていますが、上記のような技術進歩を踏まえたうえで、総括原価をサービス別になんらかの看做しをおいて算定した「収支」で、はたしてその適正さを評価可能なのでしょうか。そもそも「適正な料金」が何を意味するかを明らかにしなければ、またその適正の何たるかによって、測定方法も大きく変わることは言うまでもありません。会計制度がしばしば大きく変わるのも「適正な業績測定」に関する社会通念が大きく変わっているからだと言えますが、事業の競争環境を踏まえた「適正な料金」の考え方も同様ではないでしょうか。

 接続会計

いわゆるボトルネック設備と呼ばれるアクセス網を持つ事業者に対しては、1998年以降、接続会計の報告も求められています。接続会計とは、ボトルネック設備を持つ事業者の設備を他事業者が用いる際に支払うコスト(いわゆるアクセスチャージ)を算定するための会計です。a地点のA社の加入者がb地点のB社の加入者に電話をかける際に、中継業者としてC社を選択している場合、通常、a−b間の通話は、C社のサービスとして提供され、C社はA社及びB社からそれぞれ加入者系のサービスを「使用」した形をとります。このときに支払うコストがアクセスチャージです。このアクセスチャージも総括原価方式により算定すると、利用者が少なくなればなるほど単位あたりのコストが高くなっていくという問題を内包していることや、そもそもボトルネック設備であり事実上の競争が著しく制限された状況下におけるコストを用いてよいのかといった議論があります。

 会計制度見直しか?

上記のような問題点を抱える電気通信事業会計制度ですが、料金制度と会計制度が混乱しているところに大きな原因があると考えられます。料金計算には基礎データとしての会計データが用いられるとしても、それは過去のデータに過ぎずそれだけでは将来の状況を踏まえたものにはなりえません。また、会計制度が著しく変化していく時代に、特定の事業者だけが同じ証券市場で目的の異なった業績開示をするわけにもいかないでしょう。

このような問題意識を反映してか、平成19年8月11日に総務省から「「電気通信事業における会計制度の在り方に関する研究会」報告書案」[1]が公表され、広く意見が求められています。

  • [1]http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070810_6.html

最終更新時間:2007年12月03日 16時38分18秒