Rは素晴らしいツールですが、あくまでツールであってそれを活かす知恵や腕は監査人の努力によるところです。Rを学んだからと言って監査ができるようになるわけではありません。なかなか大変ではありますが、以下のようなことも並行して学ぶ必要がありますが、有体に言えば座学で学べるものではなく、実践しながら学んでいくことが必要です。
監査が対象とする会社がどのように行動しているかは、意思決定の仕組みとそれを具現化する指揮命令系統、管理系統、実際に行動する機能組織などのシステムを理解する必要があります。
しかし、これらを実体験なく頭だけで理解するのはとても難しいでしょう。「組織のしがらみ(柵)」という言葉があるように、組織には目では見えない力学が働いています。いわば、仕組みはラジオのような部品の組み合わせであるとすれば、力学は回路を流れる電気で、それは見ることができないのと同じです。
上の、「仕組み」の一つとして存在するのが内部統制です。内部統制を理解するには、これも経験がないとついつい「手続」や「手順」に目が行きがちになってしまいますが、それらが本来どのような目的で、それも一つではなくマルチな目的を実現しようとしているのか、さらには組み合わせた時に有機的に機能しているのか、機能はしているが効率的なのかといった観点がとても重要です。
また、監査という性質上、その内部統制が不正の防止、抑制、牽制、発見、対処の仕組みを持っているかどうかも、知っておく必要があるのですが、その前提として不正の手口などの事例をたくさんインプットしておかないと、想像力を働かせることが難しいでしょう。
監査という業務は上記の綜合知の発現であり、Rないしはそれを用いた統計分析は、監査業務の一端である監査人の懐疑心の発揮という側面をサポートする道具に過ぎません。
すべての原点は監査人の懐疑心であり、経済・社会・ビジネス・組織・人・技術等、監査対象会社を取り巻くあらゆる事象に対する監査人の知的好奇心の集約の結果です。