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はじめに

auditR

監査の置かれている環境変化

コンピュータの能力が進歩して会計監査の領域においても活用が広がっているが、いわゆるオフィスソフトやメールの利用、あるいはWEBでのデータ検索が中心である。

一方、監査環境においては特に被監査会社において情報技術を用いた業務処理が広がっており、従来のような紙の帳簿や伝票は少なくなっており、「紙の上でデータを見る」という従来の発想では監査証跡の追跡可能性(トレーサビリティ)に支障が出ている。

特に、インプットされるデータとアウトプットされる財務諸表との間の処理がブラックボックスとなることは、財務諸表と取引との関係が追跡しにくくなり、監査リスク(潜在する誤謬や不正がもたらす虚偽表示)に気が付かない恐れに繋がる。

一方、会社の経理業務においてはいわゆるエンドユーザコンピューティング(EUC)が広がっており、情報システムからデータを入手して決算や経営管理等に活用するケースが増えている。監査人においてもこれらのデータを利用することができれば、「ワープロと表計算ソフト」から脱してブラックボックスをガラス張りに透明化したワンランク上の監査手続が可能になると期待できるのではないか。

監査基準と実務対応

このような環境を前提に、監査基準ではいろいろな場所でCAATの有効性を説いているが、実際の監査現場では、その適用範囲の広さや利用方法の深さという点でまだまだ拡大の余地がある。

監査基準は監査人に虚偽表示リスクを許容可能なレベルまで押さえ込むための手続について要求はするものの、その具体的な方法についてまでは指示しない。あらゆる医術の中から患者の状況に適した治療方針を立てて治療行為を判断するのは専門家たる医者の役割であるのと同様、監査対象のリスクを踏まえて監査の方法論を適用するのは職業専門家の役割である。

当然、そこには方法論の創意工夫なども含まれ、CAATの活用もその一部に過ぎない。

色々な方法論があり得るし、また「実務の中から慣行として発達した」ものである以上、色々な方法論が提案されて活発な議論に繋がってほしいから、まずは議論を呼び起こすために自ら提案することとした。

Rという提案

そこで、Rという統計用のソフトウェアツールに着目して、会計監査に使えないかと思案してみた。このサイトは、Rの解説でもなければ監査手続の説明でもない。それらは書店に行けば多くの良書に巡り会うことができる。目指しているのは、そういった断片的な知識の整理ではなく、実践的な問題解決への提案である。そこで、

  • 会計監査で用いることを前提として必要/便利な機能に限定
  • 具体的な監査手続を想定した使い方を示すことに注力し、あえて機能紹介を欲張らずに削り落とす

ことを前提とした。換言すれば、自分が監査で試すことをそのまま載せているだけで、範囲の狭さは自分の業務領域の狭さに起因するものであるし、技術的レベルの低さは、そこまでの必要性がなかったというだけのことである。

 Rの学習におけるチャレンジ

監査の観点 データ処理の観点 必要なナレッジ(知識と技能)
実際の対象 対象を表わすデータ
分析目標 データと目標とをつなぐツールの選択
目標に応じた分析手法 データを利用するための具体的なツールの取扱
手法の統計理論的裏づけ ツールの仕様

具体的に学ぶ

Rを自習して最も感じたことは、やはり具体的事例を通じて学ぶことの大切さです。「あ、なるほど」という感覚は、リアルなデータであるほど強く得られます。監査は判断業務なのでこの感覚はとても大切です。

Rの本でよくあるように、デモ用のデータを使ってもRの機能を覚えることはできますが、単なるツールの解説だけになってしまい「納得感」がなかなか得られません。Rの解説書にはRに標準添付されているデモデータ(cars, irisなど)を用いて作られています。正直に言えば、あまり面白い事例ではありません。

いうなれば、ツールを使って出てくる結果に対して「なるほど」と実感を得られる理由は、そのデータの対象を知っているからこそではないでしょうか。

一方で、経済統計などの解説はその分析に使ったツールが何であるか関係がありません。したがって、分析のハウツーは分かっても具体的なツールの使い方となかなかつながりません。

これは監査実務から監査論を導き出すことはできても、監査論から監査実務は学べないことと同じです。監査は実践知である所以です。

実践的に学ぶ

リアルなデータを使ってRを覚えるには、実践現場で手を動かしながら、一連の所作を活用を通じて学ぶのが一番です。

逆に、実際のデータを使って研修等を行うことは、監査人に課される守秘義務の分厚い壁があり非現実的です。

医療データなどは、患者の属性だけを残して個人を特定できる住所や名前などの情報を外して匿名性を確保した上で学会などで発表する方法が採られています。

監査においてはこれもまた難しい方法です。というのも、企業情報は公開されているので、逆に公開情報から会社名が特定されてしまうことがあるからです。会社をイメージするのに最も大事な、業種、売上高、利益の3つがそろえば、簡単に分かってしまいます。

以上は極端な例ですので、ミクロなレベルではありえない話ですが、監査の世界でも具体的事例を通じた学術研究を進めるためには、企業データの取扱についての共通ルールを定めて社会的に有意義な事例をもっと共有しやすくすることも必要な取組ではないでしょうか。

そのような状況から、いまのところ実践データを使って実践的に学べる場は、監査現場ということになります。

Rの学習法

Rの機能は座学で学びつつ、「こういうことができる」という感覚を掴んで、なるべく実践データを使ってみて具体的な適用場面や使い方を覚えて実践知を磨いていくというのがよい学習法でしょう。

身近にRに詳しい方がいれば御の字ですが、そのような恵まれた環境の方はごくわずかですから、参考文献を読んだりWEBサイトを探し回って、適切な方法を見つけ出すことになるでしょう。

この一見遠回りな学習法こそ、実は長い目で見れば、幅広く奥行きのある知識の習得に貢献し、結局、それが監査における統計の応用を学ぶことに通ずるのではないでしょうか。


Last updated 2015-05-21 | auditR (c) N.Nawata