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IT化の目的と経理部門の役割

【私的草稿】通信事業会計

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このページの見出し構成


1-6-1 IT化の目的と経理部門の役割

昨今の会計システムにおいては、いわゆる仕訳伝票(振替伝票)を入力して仕訳を処理、集計させるという方法を採用することは少なくなっており、むしろ営業、原価(製造や業務)、経費、固定資産、給与などの業務を管理する会計の周辺のシステムからデータをもらって仕訳データを生成する方法が主流になってきています。

経理業務と給与業務はかなり古くからIT化(当時は、EDP化と言っていた)が行われた分野ですが、これらはEDP(Electronic Data Processing)という言葉が表しているように、人間の反復的な作業を機械に置き換えるという発想に基づくデータ処理のためのシステムでした。

もとより反復継続的な処理を行うことはコンピュータの最も得意とする分野ですが、次のような理由から、この90年以降のITの進化によりに、会計処理を中心としたシステム構成から、企業のバリューチェーンを中心に据えてそこから派生的に会計データを集めるシステム構成へと大きく変化しました。企業のバリューチェーンとは、企業戦略の策定から、資金調達、研究開発、営業販売、代金回収、顧客サポートまでの一連の業務の流れを企業の存在意義として捉えることによって、そこに価値の流れがあると考えるものです。バリューチェーンが価値の流れであるということは、価値を数値化して捉えようとする会計はこの流れに沿って起こっているいろいろな出来事(イベント)をきっかけに会計事象を処理することになります。

つまり、会計処理のために会計中心に膨大なシステムを構築していた時代から、企業内のネットワークの存在を与件(インフラ)として、そこにいかに会計システムを載せていくかという発想に代わってきています。これには次のようなIT及び周辺環境の変化が要因となっています。

1. コンピュータが扱いやすくなった
(1)小型化され処理能力が上がった
(2)処理能力あたりの価格が劇的に下がった
(3)GUIを用いたOS及びソフトウェアの普及
(4)業務用アプリケーションソフトの発展
2. 環境の変化
(1)PCの一人一台環境
(2)ネットワーク(インターネット、イントラネット、エクストラネットなど)による接続
(3)報告・管理のOA化
3. 人的資源
(1)IT教育の普及により一般にコンピュータを扱える人が増加
(2)ソフトウェア技術者の増加
4. 市場の要請
(1)ITを用いた業務の効率化が当然に求められている
(2)取引先、仕入先がEDIなどを導入することで、自社も対応せざるを得ない
(3)ITによる新たなビジネス(ネット販売など)の出現

例えば、従業員が出張に行けば出張報告書というものを提出しなければなりませんが、同時に旅費や接待費などの出張経費の精算業務も伴います。昔のイメージは、出張報告書を作成して、別途、出張経費精算書を作成し、それぞれが上司に承認されて、精算書を経理部門に持っていき現金を精算するか、立替発生の場合には従業員の銀行口座に振込まれるといった処理がされていました。経理部門では、この出張経費精算書に基づき、仕訳を起こしていました。往年の会計システムは、この仕訳処理以降を自動化していましたが、実はそこに至るまでに従業員はいろいろな作業を強いられていたのです。おそらく、出張経費精算書に記載されたデータについては、後で再利用されるということはほとんどないまま会計証憑として経理部の倉庫に眠り税務調査などに備えて帳簿とともに5年間保管されたでしょう。

シングルインプット

最近のイメージは全く異なっています。従業員は、出張が決まればおおよその経路を出張管理システムに画面入力し、上司の画面に転送され承認を受けたら必要な切符などを総務部門に発注します。そのデータは会社が契約している旅行代理店に発注データとして受け渡され代理店から切符が届けられるか、駅や空港で受取りができるようにされます。出張から戻ってきたら経路変更などを画面入力で処理し、これが承認を受けたら、会計システムにデータが送信され仕訳が生成されます。従業員は何度も同じところに出張する際には、特定の経路パターンを過去の記録から検索して再利用したり、比較的複雑でわかりにくい出張手当の計算なども自動的に行われます。

会計的な観点から以上の処理を説明すれば、共通して求められているのはいずれも会社として適正に経費を支払うように仕組みを用意するというところに主眼があります。つまりカラ出張を防止したり不正な経費の使い方を監視するといった仕組みにポイントがあるわけで、会社の財産を不当に毀損させないためには重要なことです。こういった仕組みを「内部統制」と言いますが、会計処理は単にデータ処理をしているだけではなく、内部統制による様々な手続を経て適切な経費であるという根拠を得た上で仕訳が起こされます。

企業の実態を適切に把握し報告するという会計の目的からすれば上記の内部統制は非常に大事なことではありますが、一方で、業務効率という観点からすれば省略できる手続はないに越したことはありません。上記の出張精算の例で大事なことは、例えば営業の商談を成立させることであったり、会議に出席して意見を述べることであったりするわけですから、当事者からすれば経費の精算は結果的に発生してしまう(できれば避けたい)事務処理です。そういった管理のための手続はシステムに置き換えて主要な業務処理の中で生成されるデータからもらうようにして、会計報告そのものを目的化しないようにするというのが、IT化の一つの眼目です。

データの再利用可能性確保

もう一つは、データの再利用ということを考える必要があります。出張に関するデータを集めて再利用することは余り考えられませんが、これが売上データとなると、どういった製品が、どのような組合せで、どのような時期に、どのような人に・・・売れているかというデータ分析は、非常に重要なデータです。実は正しい経理処理のためにITがあるのではなく、価値創造プロセスの管理に必要なデータを集めて利用するためにITがあるわけですから、「価値創造活動⇒データ⇒蓄積⇒利用」という流れは、経理に限らずデータを用いる業務には全て当てはまる流れです。したがって殊更取り立てて会計だけのためにITを用意するという発想よりも、価値創造プロセスを中心にデータを捉えて、会計業務のその一つとして捉えるほうが、理に適っているのではないでしょうか。

このように考えると、会計システムと他のシステムとの境界線を見出すことは非常に難しいということになります。つまり、仕訳処理システムとしての会計システムではなく、むしろ会計事象の発生から会計目的を達成するための一連のデータ処理の流れとして大括りに捉え、財務報告という観点での企業情報インフラとしてのあるべき姿を求める必要性が出てきます。

また、昨今かなりの業務がIT上で処理されているという現状を考えると、会計部門の重要な役割として、会社の業務プロセスをきちんと整理して理解し、プロセスの中のどの段階でどのような会計事象が発生しているかを把握し、なるべく現場の業務に負担をかけないような形で、会計報告制度や財務管理目的に照らしながら必要な情報を適時に網羅的に正確に入手し、業務の冗長性を招かないようにするということが求められています。したがって経理部門に属する人々には、単に会計制度を知っていればよいというのではなく、会社の業務全般に精通し、会計目的の変化と会社の業務の変化の両方を睨みながら最適なデータ入手方法を日々探究していくという姿勢が求められるため、営業や総務やIT部門、人事部門などの周辺との連絡を密にしておかねばなりません。

2004年10月11日


最終更新時間:2007年12月02日 18時30分29秒