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決算整理作業

【私的草稿】通信事業会計

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このページの見出し構成


1-5-7 決算整理作業

 1-5-7-1 月次決算と制度決算

決算整理は月次決算が充実するほど、原価差額の配賦処理に作業が集約されていきます。原価差額とは、月次決算で予定計上した原価額と実際に発生した原価額との差額のことです。もっともよく見られるのが労務費です。

月次決算では職位別の労務費単価などを年度当初に制定して、月次決算ではこれを用いて計算し、制度決算においてもう一度労務費要素別の発生額を測定し、払い出した労務費と実際発生労務費との差額を原価差額として認識し、月次決算によって認識された労務費を基に簡便的に原価差額を配賦することで決算の早期化を行っています。重要性が低ければそのまま期間費用として処理することもありますし、資産を構成すべき割合部分だけを翌期の原価差額として繰越すケースなど、いろいろな方法が採られています。

もちろん、給与・賃金の支払などはきちんと行われているわけですが、全ては労務費勘定に集約されて原価計算制度の中では労務費勘定から単価で払い出されるという計算方法となります。月次管理では、この原価差額が大きくならないように発生をモニターしていくわけですが、逆に決算整理まで大きく損益が振れるような原価差額が把握されない場合には、月次決算における原価の計上方法や、そもそもそれが予定配賦になじむかどうかを含めて再考する必要があります。

月次決算と原価差額計算が目指している姿は、次のような式で表現できます。

Σ月次決算+原価差額=制度決算

この恒等式が意味するところは、月次決算の各月の合計が制度決算であり、原価差額を極力少なくするように管理すればそれが実現できるということです。原価差額を僅少化するべく月次決算業務を設計していけば月次決算の充実とともに制度決算の精度と速度を高めることができるという考えです。

よく、見積計算に基づく数字をどこまで制度決算で利用できるのかという疑問を出されることがありますが、原価差額がそれなりに合理的な範囲(差額の発生理由がきちんと説明され、その理由が合理的なものであり、最終的に経営者が納得して外部に説明しても納得が得られる程度)に収まっていれば、それ自体問題はないと考えます。

むしろ、かなり厳密で複雑な計算方法を行うことを是とする会社もあるようですが、会計とはもともと多くの見積要素やみなし要素を持っていますから、唯一絶対の正しい方法は存在しません。ある方法(会計方針)を採用したら継続的にこれを採用することで、比較可能性を確保するとか経営者の恣意性が入らないといった相対的な正しさとして担保されていればよいわけです(継続性の原則)。

04年10月17日

 1-5-7-2 決算整理の方法と決算精度

決算整理も大きく分けると、各事業部門での決算と全社制度決算とにレベルが分けられます。決算の進め方も千差万別で、各部門で決算整理を計上するところもあれば、本社で集中的に行うケースもあります。例えば、

    • (1)部門別決算は月次管理で自己完結させてしまい、これを全社合計して全社分の決算整理を本社で一括して処理するケース。
    • (2)部門別決算は月次管理で終了するが、全社決算の段階で各部門に影響する決算整理を本社が処理するケース。
    • (3)部門別決算においても各部門の決算整理を行い、これを全社合計してさらに全社分の決算整理を本社で処理するケース。

等があります。

そもそもの決算整理事項をいかに減少させるか、決算整理をどこの組織で行うか、という二つの側面で考えれば、単に誰が作業負担をするのかという議論になってしまいますが、各方法論の裏にあるのは、月次決算がどこまで現実に近いものを表現できているかという点を確認すべきです。

ケース(1)では、部門別月次決算が既にある程度の合理的な精度を持っており、制度決算のために本社で必要な調整仕訳を入れればよいという程度にまで月次決算が発達していると考えられます。

しかし、ケース(2)ないし(3)では、部門の月次決算が制度決算と大きく乖離している可能性があり、決算において各部門での整理仕訳を入れないと部門別決算が把握できないという問題を抱えているつまり月次管理そのものがきちんと機能していないという疑いを持つべきではないでしょうか。

特にケース(3)では、部門別決算が終了するまで本社では決算作業に入ることができないため、それ自体が決算早期化のボトルネックとなっていると考えられます。また、月次決算できちんと業績把握ができるようにするために、日常業務から根本的な見直しが必要かもしれません。

なおケース(2)では、積上げで数字ができるという経理作業の原則に逆行しているので、部門決算が本社によって変更されるため、月次における部門の分析がそのまま決算に活用されず作業効率を悪くしている可能性がありますが、逆に本社から来る決算整理仕訳を月次に織り込んで部門別月次決算の精度を向上させることで(1)に移行できる可能性を持っています。

昨今の早期開示の流れを踏まえれば、各部門の月次管理で自己完結する方向に持っていくのが筋道といえるでしょう。

04年10月17日

 1-5-7-3 決算整理の計上の方法

決算整理に織り込まれる仕訳の種類はおおよそ次のようなものです。

(1)費用の見越し・繰延べ処理
(2)収益の期間帰属の調整
(3)期末の時価などが反映されるもの
(4)引当金など
(5)エラーの修正

決算整理をどのように処理するかということに関しては色々な工夫が見られます。

月次管理が十分に行われている会社では、あえて決算整理を各組織に反映させないという方法が採られます。具体的には、決算整理組織を設定する方法や、決算整理月(13月)ないし決算日付取引を設定する方法などです。

決算整理組織とは、経理システムの組織コードの中に「決算」という組織をあえて作ってその中に決算整理仕訳をためる方法です。大抵の決算整理仕訳は翌期首に洗替られますから、期首の戻し処理が決算翌月の月次の数字に大きく影響することになりますが、これを避けるためには有効な方法です。

決算整理月とは、例えば暦年決算の会社において13月という月次決算を決算整理専用に入力する方法です。3月「32」日などの決算の方法もあります。但しパッケージシステムではこのような架空の日付は処理エラーとなる可能性があるので、あまりお勧めはできません。むしろ決算整理専用組織を起こす方法がよいのではないでしょうか。

決算整理組織を用いると次のような処理が可能です。

  • 例1:ある組織で、月末日に処理すべき支払伝票が計上されていないのが締め後に判明した。
    • 決算日
組織 借方 金額 貸方 金額 摘要
決算組織 ○○費 xx 未払金 xx
支払組織 締後仕訳不能
部門組織 締後仕訳不能
    • 翌期首
組織 借方 金額 貸方 金額 摘要
決算組織 未払金 xx 本支店(支払組織) xx
本支店(部門組織) xx ○○費 xx
支払組織 本支店(決算組織) xx 未払金 xx
部門組織 ○○費 xx 本支店(決算組織) xx
    • 支払日
組織 借方 金額 貸方 金額 摘要
支払組織 未払金 xx 現金 xx

※上記では、支払組織が債務管理を行い費用負担は、全社合計では正しく、部門は「処理がもれたように」期ズレで行っている。

  • 例2:労務費の原価差額が大きかったので一部を棚卸資産に配賦する。
    • 決算日
組織 借方 金額 貸方 金額 摘要
決算組織 棚卸資産 xx 労務費原価差額 xx (期末商品つまり売上原価の一部)
部門組織 仕訳なし
    • 翌期首
組織 借方 金額 貸方 金額 摘要
決算組織 労務費原価差額(期首商品) xx 棚卸資産 xx
部門組織 仕訳なし (但し原価差額の原因となった労務費配賦単価を修正する)

※これで結果的には制度決算上のみで原価差額が棚卸資産として繰越され翌期の売上原価として処理されることになる。部門組織では決算が予定単価で自己完結するので単価よりも量的側面に集中して管理が可能となる。

  • 例3:通信事業においては、月次の売上計上が間に合わないケースが考えられますが、次のような回避方法もあります。
    • 決算日
組織 借方 金額 貸方 金額 摘要
役務部門 未請求売掛金 xx 収益(概算) xx
料金部門 仕訳なし
    • 翌期首
組織 借方 金額 貸方 金額 摘要
役務部門 収益(概算) xx 未請求売掛金 xx
料金部門 仕訳なし
    • 請求日
組織 借方 金額 貸方 金額 摘要
役務部門 本支店(料金部門) xx 収益(確定) xx
料金部門 売掛金 xx 本支店(役務部門) xx

※料金部門は請求をベースに日常業務を行っているため、請求処理がない限り残高の処理を行わない(つまり決算だからといって特別な処理はしない)。一方、役務部門は役務提供があったことは事実だから、概算で収益とリスク資産を認識する。役務部門の月次試算表には、前月収益の概算確定差額と当月の概算収益との合計額が計上される。

この処理は、決算の処理というよりも月末の定例的な業務処理と考えておけば、あえて制度決算時に追加の処理は不要であり、元帳データがそのまま月次決算データとして活用できるという根拠となる。

この方法を続けていくと、毎月の収益額は、前月の概算計上額と正式な計上額との差額と当月の概算計上額の合計となる。つまり正規の計上額を早期化に対応して早く計上できるようになれば概算計上はなくなるため収益差額もなくなる。

毎月の管理で収益差額が僅少に抑えられているという確証が得られれば、概算値による収益計上には問題がない。

04年10月17日


最終更新時間:2007年12月02日 15時20分49秒