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通信事業で意識しなければならないこと

【私的草稿】通信事業会計

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このページの見出し構成


1-4-3 通信事業で意識しなければならないこと

では、通信事業の会計における大きな違いはどこにあるのでしょうか。それは先に挙げた事業特性から導かれるわけですが、会計への影響としていくつか挙げるとすれば次のようなことではないでしょうか。

先ずは、商品を販売するわけでもなく、人がサービスを提供するわけでもなく、機械が動いてサービスを提供することと言えます。最近は電話も自動化されて「交換手」を通じて電話をかけるということもなくなりました。電話をかけるときに人が介在することはまずありません。それだけ機械化が進んだということです。そして、機械は需要に先行して用意しなければならないことが挙げられます。(先行投資型)

先行投資ということについては、販売活動に関しても言えます。販売活動とは契約獲得活動であり、販売が直接売上に繋がるわけではありません。契約を獲得しても、販売キャンペーンなどでしばらくはサービスの無料提供期間があったり、あるいは契約してもお客さん側の機器のセットアップが遅れるなどして使わないままであったり直ぐに売上が獲得できるわけではありません。むしろいかに継続して利用してもらえるお客さんを掴むかが販売活動の要となります。顧客獲得活動は、消費財などの販売活動とは異なり顧客の長期利用コミットメントを得るための活動です。

このような先行投資という性質は、会計、こと期間利益計算においては非常に悩ましい問題を抱えています。それは、お金の出と入りとが「期間」では対応しないということです。先ほど挙げた八百屋さんの例では、今日の仕入を今日中にいかに売り切るかというところで考えればいいので、日々の収支をそのまま利益計算にすることができますが、先行投資の場合は、今日の投資決定による支出を将来の数年間に亘って回収するという形になりますから、企業活動が生み出した価値と消費した価値の差である利益という形で業績を捉えようとしても、販売活動を媒介とした売上−売上原価対応、あるいは売上と販売活動(販売費)の対応による「利益」の意味内容が異なります。

これを解決するためにはある種のみなし計算が必要となります。

機械については減価償却という手続に現れてきます。減価償却とは、投資によって取得された設備の支出をそれが利用される将来の期間に亘って配分計算して各期間でコストとして認識する会計の技法です。例えば、100億円の投資を行って10年間に亘って機械を使用するという前提のもとで、毎年10億円ずつを費用として認識するという方法です。

しかしながら、市場の変化の激しい時代においては、投資決定当初のみなしはいつまで前提として成り立つかどうか極めて曖昧です。新しい技術が出てきて機械が使えるにしても陳腐化してしまうことが考えられます。お客さんの利用トレンドが全く変わり、新品同様の設備が低い稼働率のままかもしれません。減価償却という考え方は世の中の動きの激しい中で非常に悠長な方法です。これが後述の減損会計という考え方に繋がっていきます。

顧客獲得活動については、今のところ減価償却のような繰延方式は採られていません。しかしながら、収益と獲得費用とが対応しないという問題は依然として解決できません。

もっと大きなスパンで言うと、装置産業はイノベーショントレンドの影響を受けます。ある技術を前提に市場が発展していき、先行投資が回収された頃に、新しい技術への投資が行われ、顧客が新しい技術のほうにシフトしていくという動きです。

技術開発⇒設備投資⇒顧客獲得⇒設備投資⇒顧客獲得⇒・・・技術開発⇒設備投資⇒顧客獲得⇒設備投資⇒顧客獲得⇒・・・技術開発⇒設備投資⇒顧客獲得⇒設備投資⇒顧客獲得⇒・・・

八百屋さんは、ここ数日の購買傾向や数日間の近所の行事などを頭に入れて、今日何が売れるかを考えながら仕入れを決定するという行為を毎日繰り返していきます。しかし設備産業は、一旦決定された投資を回収するまでに数年の期間がかかります。つまるところ、投資の回収や借入資金の返済ということのほうが、減価償却というみなし要素を多く含んだ利益計算よりも重要であるということになりますし、

ここが、一般事業会社と会計パラダイムにおいて大きく異なっている部分です。

04年10月17日


最終更新時間:2007年11月24日 14時22分41秒