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固定資産会計及び減損会計

【私的草稿】通信事業会計

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このページの見出し構成


1-5-6 固定資産会計及び減損会計

 1-5-6-1 減損会計とは

減価償却

固定資産投資額の収益に対応させた期間配分過去の投資回収可能性を保証しない

減損会計

固定資産をキャッシュフロー創出単位で捉え、これに正味キャッシュフローを対応させた時点認識将来のキャッシュ能力

素材(モノ)としての固定資産⇒CF生成単位←サービス単位

CF生成単位=投資効率測定単位=意思決定単位

問題はメンテナンス投資と需要対応投資初期投資は規模の経済(割算効果)需要対応投資はネットワーク外部性による収穫逓増法則(相乗効果)

減損でないもの

未利用設備、余剰設備の臨時償却陳腐化設備の臨時償却

減損会計のある中での減価償却の意味相変わらずみなしは必要配当可能額の平準化

 1-5-6-2 ネットワーク産業における減損会計

ネットワーク産業において減損会計は大きな問題の種です。その理由は、・他の作業に比較して、資産に占める固定資産の割合が相当に高いため、減損損失が損益に与える影響が大きいと考えられる。・固定資産の金額だけでなく、品目・種類や件数も膨大であり、作業が大変であろうと想像できる。以上は、大方の固定資産担当者が悩むところですが、本質的に大きな悩みとして、ネットワーク産業における固定資産減損におけるキャッシュフロー創出単位はどう考えればよいのかというところです。実は、キャッシュフローの創出単位そのものは、約款などで役務の内容がきっちりと定められているので、「役務単位」で考えることはできそうなのですが、これを「固定資産と関連付けて」キャッシュフローを捉えようとすると非常に難しくなります。

例えば、鉄道ですと、東海道線、山陽本線、などの路線単位が思いつきます。事実、鉄道会社は「営業係数」と称する指標を路線ごとに持っています。これはある路線で100円を稼ぐためにいくらのコストがかかるかという考え方で、営業係数が100以上であれば赤字路線、以下であれば黒字路線という意味です。この考え方は、旧国鉄が民営化された前後の時期を中心に、赤字ローカル線を廃止するかしないかの一つの参考指標として議論に用いられていました。これをそのまま固定資産の減損会計に適用するという考え方を採ったとして、どのような問題があるでしょうか。

経営意思決定に与える影響

人口密度が高く通勤ラッシュなどで混雑率が200%を超える首都圏の鉄道路線が「黒字」になり、実質的に車社会である地方のローカル線が「赤字」になることは容易に想像がつきます。そうすると、経済合理的な(つまり投資効率を高め株式価値を上げようとする)経営者には、赤字路線を廃止して黒字路線だけで経営しようという意思が働きます。仮にこういう行動に出ると、学生や高齢者など社会的弱者が利用する路線が廃止され、地元の生活に多大な影響を与えてしまいます。かと言って、赤字垂れ流しでは昔の国鉄のように過剰債務の組織になり経営が成り立たなくなります。高速道路も言ってみれば一つのネットワークであり、赤字路線と黒字路線が混在していますが、路線ごとに需要に見合った投資であるかどうかの測定及び評価は絶対に必要です。

計算技術的問題

別の議論もあります。例えば東京に住んでいる人が、鉄道を使って幹線とローカル線を乗り継いで、無人駅のある田舎町に観光に行ったとします。運賃は発駅から着駅まで支払ったとして、この運賃収入は一体、どちらの路線からいくら生じたのでしょうか。鉄道運賃は、時刻表を見れば分かるように距離に応じて高くなっていますが、幹線とローカル線とでは、やや運賃体系が異なっています。これを利用して「合理的にみなして配分」する方法も考えられますが、発券業務などのコストをかけている幹線側と、プラットフォームだけで駅舎もないような無人駅が連なるローカル線側とで、配分した運賃がコストとの対応関係を持つのかどうか疑問です。

また、受益者が必ずしも料金を払うわけではないということもあります。電話を例に挙げて考えてみます。受話器を取って番号をダイヤル(という言葉は旧いのでプッシュ)すると、即相手に繋がる電話は、当たり前の話ですが相手がサービスに加入しているから繋がるものですが、相手は自分からの通話を受けることを想定して電話サービスの契約をしているわけではありません。公共的組織や商売をやっているところならまだしも、通常はそうたくさんのところから着信することは少ないわけです。インターネットのWebサーバーなどは、逆に世界中の誰からでもアクセスされることを前提に用意されているわけですが、アクセスが集中してトラフィックが増えても、サーバーの利用について利用者がコストを負担するわけでもなく、情報の提供者もサーバーの容量見合い部分のコスト以上は負担しません。むしろネットワーク全体のコストをある前提に基づいて利用者が合理的に負担する仕組みであり、事業者間の競争による全体的なコスト削減と、利用者の利用態様とコスト負担とを比較した判断とによって、全体のネットワークが維持されていると考えるべきでしょう。

恒久的設備の「期間」

ライフサイクルのある製品を製造する設備や、メンテナンスをしても一定期間が経過すれば必然的に取り壊しを余儀なくされるビルなどとは異なり、鉄道路線は一定量以上の需要が見込める限り定期的にレールの交換などをしていきながら恒久的にそこに存在しつづけるもので、そもそもの投資の回収期間をどう考えるべきか難しい部分があります。

数値の持つ意味

もともとオペレーションをギリギリまで極小化してコストを削減しているローカル線と、利用者集中による混雑緩和のための複々線化投資や安全対策などを行っている首都圏路線とでは、投資の回収期間や投資効率に対する考え方が根本的に異なっているはずです。それらを、「合理的にみなして配分」したキャッシュフローを前提に、減損損失を算定したところで、一体その数値が何を示しているのか分からないということになりかねません。

以上のような意見に対して、有力な反論が考えられます。それは、会計における利益測定概念においては、もともと発生主義という考え方自体が、ある「みなし」を前提にしており、固定資産への投資を減価償却という手続によって期間配分するという考え方そのものが分配可能利益を算定するためのみなし計算であるから、減価償却によるみなし計算の結果を将来の回収可能額でさらに補正しようとする減損会計がみなし計算であったとしても当然であるとする考えです。

さらに、経営組織体である以上は設備投資の回収についての基本的な考え方や、結果を測定・評価する方法論を持つことは、経営者としての責務であり、技術的困難を理由にこれを回避することはアカウンタビリティの放棄に繋がりかねないとする意見です。これは固定資産の減損会計の根本的思想であり、前提条件とも言えます。

鉄道や電力、通信といった産業は、確かにキャッシュフローの創出単位を擬制することは可能ですし、その結果を用いて意思決定できないわけではありません。しかし、面的広がりを持つということに意味を持つ産業の特性から、全体のコストを利用態様に応じて利用者が負担する仕組み(すなわち料金体系)を前提にしている以上、経営者がOne NetworkをCGUと考えるということについて、あながち否定もできないわけです。

通信事業などは、サービスが成長期から安定期に入ることで顧客獲得活動や需要見合いの投資が一段落し、急激にキャッシュフローがよくなります。このキャッシュフローを分配に回すのか、それとも新たな将来の技術や設備への投資に回すのかは、経営者の考え方と投資家の期待とのバランスで決まってきます。そうすると、導入期(OCFがマイナスであり先行投資)、成長期(OCFがゼロかややプラスで需要見合いで設備投資)、安定期(OCFはプラスでメンテナンス投資が主体)、衰退期(OCFは縮小し設備も縮退していく)というサービスライフサイクル区分で固定資産を捉え減損を考える必要もあるでしょう。

したがって大事なことは、経営者がどのように設備投資の意思決定を行い、これをどうやって回収しようとしているかについての方針を打ち立て、きちんと説明し、それに基づいて減損会計を適用するということに行き着くわけです。つまり減損の会計方針は、従来から存在している会計方針である、定額法や定率法、低価法や原価法など結果的に数値が一意に定まる「測定方法の選択」としての方針の開示ではなく、測定方法そのものの説明とその合理性についての経営者としての考え方をきちんと開示しこれにコミットすると言う前提がなければ、きわめて片手落ちな会計方針になりかねないことを肝に命ずるべきです。また、そこには期間利益によって業績を開示し時系列比較ないし同業他社間の比較可能性を確保させつつ、結果的に分配可能利益を測定するという旧来からある会計思想とは異なり、経営者の将来に対するものの見方を反映した事業戦略を数字によってコミットさせて、考え方の比較可能性を確保しようとする思想があるように思えます。つまり、全く同じ経営リソースで同じ経営行動を採れば、旧来の会計思想では、全く同じ財務諸表が作成されるはずですが、減損会計により経営者の将来判断が加わることによって、今後は経営者の違いにより異なる財務諸表が作成されることになるでしょう。

初稿:2004年05月30日

 1-5-6-3 キャッシュフロー創出単位と設備のコスティング

CGU

コスティングの基本概念

コスティングすなわち原価の計算には様々な考え方があり、目的に応じて色々な方法が選択されています。ここでも会計の基本的な考えとして、唯一絶対的な方法は存在せず、利用者の目的に応じて最も適切と考えられる方法を継続的に適用することで、相対的な比較可能性を確保し、情報の有用性を高めようとする考え方が背景に出てきます。

原価とは、経営目的に関する価値の消費を貨幣数値で表現したものであり、価値に対する考え方によって原価の測定の方法も全く異なります。固定資産の原価計算については古くから議論がなされてきましたが、その主なものは減価償却費をどのように配分するかという議論であり、減価償却そのものを議論の対象とはしていません。極端な例では、減価償却費を排除して直接原価計算などが主張されましたが、直接費の多い製造業では有効は方法であったとしても、インフラコストが中心となる通信業ではこの考え方は使えません。また、減損会計では減価償却ではなく固定資産の簿価が対象ですから、CGUという概念の確立とそれに即してどのように固定資産を認識するかという点が議論の中心になります。

サービスライフサイクルサービス機能サービス能力と割当率(量)サービス稼働と稼働率サービス成果

Input BaseCapacity Based CostingActivity Based Costing

Output BaseActivity Based CostingPerformance Based CostingRevenue BasedProfit Based


最終更新時間:2007年11月25日 10時28分13秒